文字係数の不等式 | 場合分けの仕方を丁寧に解説【数学I】

この記事では、高校数学の数学Iで学習する文字係数の不等式について書いています。

ここでの目的は以下の問題を解くことです。

(問) \(x\,\)についての不等式\(\,ax<b\,\)を解け。

たった1行の問題ですが、解答をする際にはかなり複雑な場合分けが要求されます

以下では、場合分けの仕方について1つずつ丁寧に解説していきます。

前置き

不等式を解く前に方程式は解けますでしょうか?

(問) \(x\,\)についての方程式\(\,ax=b\,\)を解け。

文字係数の方程式は「\(\,a\,\)が\(\,0\,\)か否か」で場合分けを行うのでしたね。

解答は以下のようになります。

(答) \(\left\{ \begin{array}{1}
a\neq0\ {\bf のとき}\ x=\displaystyle\frac{b}{a}\\
a=b=0\ {\bf のとき}\ {\bf すべての実数}\\
a=0,\ b\neq0 \ {\bf のとき}\ {\bf 解なし}
\end{array} \right.\)

上の問題がいまいちわからないという人は必ず先にこちらの記事からチェックしてください。

この記事では、文字係数の方程式について書いています。 具体的な内容としては以下の問題を解くことが目標です。 ...

不等式は方程式よりも難易度が上がりますので、先に方程式を仕上げるべきであると担当者は考えます。

文字係数の不等式

それでは、本題です。

(問) \(x\,\)についての不等式\(\,ax<b\,\)を解け。

文字係数の不等式も「\(\,a\,\)が\(\,0\,\)か否か」で場合分けを行うのは方程式と同じです。

しかし、それだけでは済まされません。

なぜならば、不等式は両辺を負の数で割ったときに不等号の向きがひっくり返るからです。

つまり、「\(a\,\)が\(\,0\,\)か否か」に加えて「\(\,a\,\)が正か負か」というのも考える必要があります。

さらに、この問題では、\(\,b\,\)という文字の扱いについても考えなければなりません。

講釈はここまでにして、さっそく場合分けをしていきましょう。

\(a>0\,\)のとき

\(a>0\,\)、つまり、\(a\,\)は\(\,0\,\)よりも大きい何物かであるという場合です。

不等号の下にイコールはないので、\(0\,\)になることはありません。
\(a\,\)が\(\,0\,\)でないのであれば、両辺を\(\,x\,\)の係数\(\,a\,\)で割ることができます。

不等式の両辺を\(\,a\,\)で割って...

\(\begin{eqnarray}ax&<&b\\
x&<&\displaystyle\frac{b}{a}\end{eqnarray}\)

\(a\,\)は正の数なので、両辺を\(\,a\,\)で割っても不等号の向きが変わることはありません。

よって、\(a>0\,\)のとき

\(x<\displaystyle\frac{b}{a}\)

\(a=0\,\)のとき

\(a=0\,\)、つまり、\(a\,\)は\(\,0\,\)であるという場合です。

\(a\,\)が\(\,0\,\)である以上、両辺を\(\,x\,\)の係数\(\,a\,\)で割ることはできません。
このようなときは代入して式の意味を考えます。

不等式に\(\,a=0\,\)を代入して...

\(\begin{eqnarray}ax&<&b\\
0\cdot x&<&b\end{eqnarray}\)

ここで、この不等式を成り立たせる\(\,x\,\)について考えます。

\(x\,\)は\(\,0\,\)倍されているので、仮に\(\,x\,\)がどんな値であろうと式の左辺は常に\(\,0\,\)です。

よって、「\(0<b\,\)という不等式が成り立つか否か」に話がすり替えられます。

しかし、\(b\,\)も文字である以上、値は定かではありません。

ならば、かなりめんどくさい未来が予想されますが、\(b\,\)の値についてさらに場合分けを行う必要があります。

\(b>0\,\)のとき

\(b>0\,\)、つまり、\(b\,\)は\(\,0\,\)よりも大きい何物かであるという場合です。

このとき

\(\begin{eqnarray}0\cdot x&<&b\\
0&<&b\end{eqnarray}\)

この式の意味とは、「\(\,0\,\)は\(\,b\,\)より小さい」、逆に言うと「\(\,b\,\)は\(\,0\,\)より大きい」です。

これはまさに\(\,b>0\,\)という条件そのものです。

つまり、この式を満たす\(\,x\,\)の値はすべての実数であり、\(x\,\)の値によらず不等式は成立します。

よって、\(a=0,\ b>0\,\)のとき

すべての実数

\(b=0\,\)のとき

\(b=0\,\)、つまり、\(b\,\)は\(\,0\,\)であるという場合です。

このとき

\(\begin{eqnarray}0\cdot x&<&b\\
0&<&0\end{eqnarray}\)

この式の意味とは、「\(0\,\)は\(\,0\,\)より大きい」です。

ところが、「\(0\,\)は\(\,0\,\)より大きい」なんて、わけがわかりません。

当然ながら、この式を満たす\(\,x\,\)の値など存在するはずがなく、解なしです。

よって、\(a=b=0\,\)のとき

解なし

\(b<0\,\)のとき

\(b<0\,\)、つまり、\(b\,\)は\(\,0\,\)よりも小さい何物かであるという場合です。

このとき

\(\begin{eqnarray}0\cdot x&<&b\\
0&<&b\end{eqnarray}\)

この式の意味とは、「\(\,0\,\)は\(\,b\,\)より小さい」、逆に言うと「\(\,b\,\)は\(\,0\,\)より大きい」です。

しかし、これは\(\,b<0\,\)という条件に矛盾します。

つまり、この式を満たす\(\,x\,\)の値は存在せず、解なしです。

よって、\(a=0,\ b<0\,\)のとき

解なし

なお、\(b=0\,\)のとき、\(\,b<0\,\)のとき、これらの場合はともに解なしとなるので、以下のようにまとめて表記するのが一般的です。

\(a=0,\ b≦0\,\)のとき

解なし

\(a<0\,\)のとき

\(a>0\,\)、つまり、\(a\,\)は\(\,0\,\)よりも小さい何物かであるという場合です。

\(a>0\,\)の場合と同じく、不等号の下にイコールはないので、\(0\,\)になることはありません。
\(a\,\)が\(\,0\,\)でないのであれば、両辺を\(\,x\,\)の係数\(\,a\,\)で割ることができます。

ただし、注意が必要です。

不等式の両辺を\(\,a\,\)で割って...

\(\begin{eqnarray}ax&<&b\\
x&>&\displaystyle\frac{b}{a}\end{eqnarray}\)

\(a\,\)は負の数なので、両辺を\(\,a\,\)で割ると不等号の向きがひっくり返ります。

よって、\(a<0\,\)のとき

\(x>\displaystyle\frac{b}{a}\)

まとめ

(問) \(x\,\)についての不等式\(\,ax<b\,\)を解け。

(答) \(\left\{\begin{array}{1}
a>0\ {\bf のとき}\quad & x<\displaystyle\frac{b}{a}\\
a=0,\ b>0 \ {\bf のとき}\quad & {\bf すべての実数}\\
a=0,\ b≦0 \ {\bf のとき}\quad & {\bf 解なし}\\
a<0\ {\bf のとき}\quad & x>\displaystyle\frac{b}{a}\end{array} \right.\)

以上が文字係数の不等式の解き方です。

ややこしい話になりましたが、ここまで読んでくれた皆様、本当にお疲れ様でした。

最後に、不等号を逆向きにした問題とその解答を示しておきますので、自力でチャレンジしてもらえると嬉しいです。


(問) \(x\,\)についての不等式\(\,ax>b\,\)を解け。

(答) \(\left\{\begin{array}{1}
a>0\ {\bf のとき}\quad & x>\displaystyle\frac{b}{a}\\
a=0,\ b≧0 \ {\bf のとき}\quad & {\bf 解なし}\\
a=0,\ b<0 \ {\bf のとき}\quad & {\bf すべての実数}\\
a<0\ {\bf のとき}\quad & x<\displaystyle\frac{b}{a}\end{array} \right.\)