この記事では、分母の有理化について書いています。
分母の有理化とは
そもそも、分母の有理化とは、分数の分母から根号を取り除く変形のことを言います。
このことは中学数学で既に学習済みのはずです。
たとえば...
(問) 次の数の分母を有理化せよ。
\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)
この問題では、分母の\(\,\sqrt{2}\,\)を解消するために分子と分母両方に\(\,\sqrt{2}\,\)を掛けます。
\(\displaystyle\frac{\color{red}{1}}{\color{blue}{\sqrt{2}}}=\frac{\color{red}{1}\color{green}{\times\sqrt{2}}}{\color{blue}{\sqrt{2}}\color{green}{\times\sqrt{2}}}=\frac{\sqrt{2}}{2}\)
これは最も基本的なタイプの有理化です。
このやり方を踏まえた上で、以下にて高校数学レベルの有理化を解説していきます。
基本問題
それでは、高校数学レベルの有理化の問題です。
(問) 次の数の分母を有理化せよ。
\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\)
間違ったやり方
はじめに、間違ったやり方を示します。
根号は\(\,2\,\)乗すれば外れるということを上の例で確認しました。
その発想から分子と分母に\(\,\color{green}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\)を掛けると...
\(\displaystyle\frac{\color{red}{1}}{\color{blue}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\color{red}{1}\color{green}{\times}\left(\color{green}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\right)}{\left(\color{blue}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\right)\color{green}{\times}\left(\color{green}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\right)}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\sqrt{3}+\sqrt{2}}{5+2\sqrt{6}}\)
これを行うことで、もともと分母にあった根号\(\,\sqrt{3}\,\)と\(\,\sqrt{2}\,\)は消えました。
しかし、その代わりに\(2\sqrt{6}\,\)というゴミをはき出してしまいました。
分母には根号がまだ残っている状態なので、これでは有理化を完了したとは言えません。
ならば、\(\,\sqrt{6}\,\)を掛けて根号を消してしまえばよい、と考えるのが自然でしょう。
そこで、分子と分母に\(\,\color{green}{\sqrt{6}}\,\)を掛けると...
\(\displaystyle\frac{\color{red}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}}{\color{blue}{5+2\sqrt{6}}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\left(\color{red}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\right)\color{green}{\times\sqrt{6}}}{\left(\color{blue}{5+2\sqrt{6}}\,\right)\color{green}{\times\sqrt{6}}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{3\sqrt{2}+2\sqrt{3}}{5\sqrt{6}+12}\)
分母には依然として根号が残ったままです。
いよいよ雲行きが怪しくなってきました。
無駄だとは知りつつも、分子と分母にもう一度\(\,\color{green}{\sqrt{6}}\,\)をかけると...
\(\displaystyle\frac{\color{red}{3\sqrt{2}+2\sqrt{3}}}{\color{blue}{5\sqrt{6}+12}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\left(\color{red}{3\sqrt{2}+2\sqrt{3}}\,\right)\color{green}{\times\sqrt{6}}}{\left(\color{blue}{5\sqrt{6}+12}\,\right)\color{green}{\times\sqrt{6}}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{6\sqrt{3}+6\sqrt{2}}{30+12\sqrt{6}}\)
もはや、ネバーエンディングストーリーです。
このような操作をいくら行っても分母の有理化を成し遂げることはできません。
正しいやり方
ようやくですが、正しいやり方を示したいと思います。
結論から言うと、分母が根号を含む和の形になっている場合は「和と差の積の展開公式」を利用して分母の有理化を行います。
和と差の積の展開公式とは、次の式のことです。
もちろん、この各項に根号が含まれていても公式は問題なく成立します。
=\left(\sqrt{x}\,\right)^{2}-\left(\sqrt{y}\,\right)^{2}=x-y\)
ここまで説明すれば、問題の分母にあった\(\,\sqrt{3}+\sqrt{2}\,\)の根号を外すために何を掛ければよいか、もう分かってもらえたでしょう。
それは\(\,\sqrt{2}\,\)の符号を反転させた\(\,\sqrt{3}-\sqrt{2}\,\)です。
分子と分母に\(\,\color{green}{\sqrt{3}-\sqrt{2}}\,\)を掛けると...
\(\displaystyle\frac{\color{red}{1}}{\color{blue}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\color{red}{1}\color{green}{\times}\left(\color{green}{\sqrt{3}-\sqrt{2}}\,\right)}{\left(\color{blue}{\sqrt{3}+\sqrt{2}}\,\right)\color{green}{\times}\left(\color{green}{\sqrt{3}-\sqrt{2}}\,\right)}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{\sqrt{3}-\sqrt{2}}{3-2}=\sqrt{3}-\sqrt{2}\)
この問題では、最終的に分母が\(\,1\,\)になり、根号はおろか分母そのものが消えてしまいましたが、とにかく分母から根号は消えたので、分母の有理化は無事に完了です。
よって、答えは\(\,\sqrt{3}-\sqrt{2}\)
応用問題
最後に、応用問題を1つ解いておきます。
(問) 次の数の分母を有理化せよ。
\(\displaystyle\frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}}\)
結論から言うと、このタイプの有理化は「置き換え」を利用します。
\(1+\sqrt{2}=X\,\)とすると...
\(\displaystyle\frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}}\\
=\displaystyle\frac{1}{X+\sqrt{3}}\)
これで有理化を行いやすい形となりました。
分母の\(\,\sqrt{3}\,\)の符号を反転させた\(\,\color{green}{X-\sqrt{3}}\,\)を分子と分母に掛けると...
\(=\displaystyle\frac{\color{red}{1}\color{green}{\times}\left(\color{green}{X-\sqrt{3}}\right)}{\left(\color{blue}{X+\sqrt{3}}\right)\color{green}{\times}\left(\color{green}{X-\sqrt{3}}\right)}\\
=\displaystyle\frac{X-\sqrt{3}}{X^{\,2}-3}\)
\(X\,\)を元に戻して整理します。
\(=\displaystyle\frac{\left(1+\sqrt{2}\right)-\sqrt{3}}{\left(1+\sqrt{2}\right)^{2}-3}\\
=\displaystyle\frac{1+\sqrt{2}-\sqrt{3}}{3-2\sqrt{2}-3}\\
=\displaystyle\frac{1+\sqrt{2}-\sqrt{3}}{2\sqrt{2}}\)
ところが、分母には依然として根号が残った状態です。
それを解消するために\(\,\color{green}{\sqrt{2}}\,\)を分子と分母に掛けると...
\(=\displaystyle\frac{\left(\color{red}{1+\sqrt{2}-\sqrt{3}}\right)\color{green}{\times\sqrt{2}}}{\color{blue}{2\sqrt{2}}\color{green}{\times\sqrt{2}}}\\
=\displaystyle\frac{\sqrt{2}+2-\sqrt{6}}{4}\\
=\displaystyle\frac{2+\sqrt{2}-\sqrt{6}}{4}\)
はい、できました。
ちなみに、この問題は最初に行う置き換えのところで、\(\,\sqrt{2}+\sqrt{3}=X\,\)として解くこともできます。
むしろ、ともに根号を含む\(\,\sqrt{2}+\sqrt{3}\,\)の方を置き換えたくなる人が多いかもしれません。
しかし、この置き換えを行うと、計算がかなり煩雑になります。
\(\displaystyle\frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}}\\
=\displaystyle\frac{1}{1+X}\\
=\displaystyle\frac{1\times\left(1-X\right)}{\left(1+X\right)\times\left(1-X\right)}\\
=\displaystyle\frac{1-X}{1-X^{\,2}}\\
=\displaystyle\frac{1-\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)}{1-\left(\sqrt{2}+\sqrt{3}\right)^{2}}\\
=\displaystyle\frac{1-\sqrt{2}-\sqrt{3}}{-4-2\sqrt{6}}\\
~~~~~~~~~~\vdots\)
見ての通り、分母に\(\,-4-2\sqrt{6}\,\)という複雑な形が残ってしまいました。
この後に要求される計算は\(\,-2\sqrt{6}\,\)の符号を反転させた\(\,-4+2\sqrt{6}\,\)を分子と分母に掛けることですが、それはなるべくやりたくないですよね。
この問題に限りませんが、先に起こり得る展開をある程度予測して問題に取り組むことは数学の勉強においてとても重要なことです。
まとめ
分母の有理化についてまとめておくと...
- 基本的な有理化
\(\displaystyle\frac{y}{\sqrt{x}}=\displaystyle\frac{y\times\sqrt{x}}{\sqrt{x}\times\sqrt{x}}=\frac{y\sqrt{x}}{x}\)
- 分母が根号を含む和の形
\(\displaystyle\frac{z}{\sqrt{x}+\sqrt{y}}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{z\times\left(\sqrt{x}-\sqrt{y}\,\right)}{\left(\sqrt{x}+\sqrt{y}\,\right)\times\left(\sqrt{x}-\sqrt{y}\,\right)}\\[0.5em]
=\displaystyle\frac{z\left(\sqrt{x}-\sqrt{y}\,\right)}{x-y}\)
押さえておくべきは、この2つです。